内容説明
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本書は、耳から学ぶというジャズの伝統的学習法による成果である。耳から学んだ様々なアイデアをとりまとめて本にしたもので、誰もがジャズに精通した著者の体験的知識から恩恵をこうむることができる。稲森氏は豊富な音楽経験を持ち、ジャズやポピュラーに関する本を数多く出版している。氏は暗闇の中の一条の光明だ。どのような疑問にも労をいとわず答えてくれている。その回答は卓越したものだ。私にとってジャズの伝統にのっとったこの名著『ジャズ・フレーズ [バイリンガル版]』の英文を監修したことは名誉なことだ。
ジャズ・フレーズのエッセンスを取り出し、ジャズの奏法を知りたいと興味を抱いている人が誰でも理解できるように稲森氏はまとめてくれた。本書は基礎事項からなっているが、これらの基礎事項からどのようにして意味深い音楽が演奏されるかという視点も決して忘れてはならない。稲森氏は本書が生徒自身のジャズを形成する手助けとなるように、本書の中の様々なフレーズを学びつつ生徒自身の音楽性をこれらのフレーズに反映するようにと熱心に勧めている。
ジャズはその殆どが一瞬のうちに消えてなくなるアドリブが故に、実際に音を聴いて学ぶという伝承方法をとってきた。音に敏感なミュージシャン達は、生演奏やレコードを聴いて、そこから興味が湧いた音楽的アイデアを見つけ、各自が自分の楽器にそのアイデアを当てはめていったのである。こういった方法は今も受け継がれていて、実際ジャズの最もよい学習法の一つとして現在に至っている。
また、ジャズ・ミュージシャンは自分の音楽性を高めるための方法を常に模索しているが、ジャズ教育が確立される以前、自分の練習法や秘訣を他人には漏らさないことが当たり前であった。というのは、そうしてしまえば自分の演奏活動の場が限られてしまうようになる、という危惧からであり、さらには“喰うか喰われるか”といった考えが多くの演奏家に広まっていたためである。つまり、個人の練習方法や音楽的なアイデアを他人に教えたり助言したりすれば、ジャズについて個人が蓄えてきた知識や秘訣や個性を他人に分け与えることになり、結果的に自分より他人がうまくなるかもしれないと考えたのである。それにジャズ・ミュージシャン達は「ジャズの仕事なんてたくさんあるわけがないだろう。だいたい世間の人達は、ジャズ・ミュージシャンというのは他の音楽家にはできない秘法によって演奏する特殊な人種で、関わらない方がいいと思っているのだから。」「一般人が我々を特殊な人種だと考えるなら、そう思わせておけばいいさ。」といった具合の自分の殻に閉じこもった考え方をしていたのだ。
1960年代初頭のジャズ教育の出現以来、こういった状況は次第に変わっていった。考え方がオープンになるまで二、三十年かかってしまったが、ジャズ・ミュージシャンとして成長するために、お互いがジャズの情報を交換し、助け合っていくことは今では当たり前となっている。質問の交換、ソロの採譜、12キーによるフレーズやパターンの練習、また初心者には従来なかった数多くの練習方法が用意されるようになったのは至極当然のこととなった。今ではお互いの交流が自分たちの向上につな がるという考えはすっかり定着している。ジャズとは常に発展・成長している音楽なのだから、お互いに分かち合うことは「不断の音楽的創造」というジャズ本来の目的と同一線上にあると言ってよいだろう。
本書は、ジャズ・ミュージシャンたちがジャズにおける創造についてより深く理解する手助けとなると同時に、実際に応用するための明確なガイドラインを与えてくれる。本書のフレーズを演奏し、現代の音楽の歩みをあなた自身の耳で聴き取ってほしい。
《1993年 ジェイミー・エバーソルド》
ジャズ即興演奏の方法論/実際のフレーズ応用例/キーボード奏者のために/レフト・ハンド・ヴォイシング/アヴェイラブル・ノート・スケール/7つの教会施法/ アヴォイド・ノート(省略音)の記憶法/スケールからコードを構成する方法/コードとスケール早見表/アエイラブル・ノート・スケールの使用例/1. 基本コード進行とそのフレーズ/2. ダイアトニック・フレーズ/3. ブルーノート・スケール・フレーズ/4. アプローチ・ノート・フレーズ/5. オルタード・スケール・フレーズ/6. リディアン・ドミナント・スケール・フレーズ/7. ハーモニック・マイナー・スケール・パーフェクトフィフス・ビロー・フレーズ/8. ホールトーン・スケール・フレーズ/9. コンビネーション・ディミニッシュ・スケール・フレーズ/10. ペンタトニック・スケール・フレーズ/0011. リハーモニゼイションを応用したフレーズ/12. クロマチック・フレーズ/13. アッパーストラクチャー・トライアド・フレーズ/14. 完全4度音程フレーズ/15. フレーズの展開